音楽文化に革命を起こす iTunes Music Store!?
いきなり固い話題のようだけど、音楽好きにはたまらない話題。
すでに、インターネット上では、膨大な数のフォーラムやBlogなどでiTunes Music Store(以下、iTMS)について意見が飛び交っている。ウェブニュース等で評判を見ると、今のところ、iTMSの評判は上々みたい。
iTunes Music Storeのページ
http://www.apple.com/jp/itunes/
iTMSの内容や、使い勝手は、星の数ほどあるWebサイトなどを参照してもらうとして、ここでは、ちょっと違う視点からiTMSとそれを発端とした今後の音楽製作と音楽流通(というとだいぶ大げさだけど)について個人的な意見を書いてみたい。
その前にまず、iTMSの良い点をおさらい。
iTMSのひとつの利点は、楽曲を1曲単位で買えるということ。
だから、あまり知らないアーティストでも気に入った曲があれば、1曲だけ購入することができるってこと。ラジオなどで流れていた楽曲を「かっこいー!」と思ってそのアーティストのフルアルバムを買ってみたら、他の曲はだめだった、なんて事がなくなる。
さらに、iTMSで販売している曲は例外を抜いてほとんどが試聴できる。だから失敗が少ない。試聴というと街の大型レコード店ではたいてい試聴ができるが、すでに先客が試聴機を陣取っていたり、聞いてみたい楽曲が試聴機に入っていなかったりで、100%満足いくものでもない。iTMSなら、レコード店に足を運ばずとも、購入前に全ての楽曲を30秒ほど試聴できる。どんな曲調か知っていて、曲のタイトルが分からないときも試聴できるのは便利。
さらにさらに、iPodへの転送がものすごく楽。もともと、iPodという製品から派生したサービスなので当たり前だが、ダウンロードしたらすぐにiPodに入れて外出先で聞くということができる。
さて、iTMSの良さばかりを並べてみたけど、iTMSは実際、良いとこずくめだ。ちょっとした欠点など忘れてしまうくらい衝撃的だ。で、どれくらい衝撃的かというと「音楽文化に変革をおこす」くらい衝撃的・・・かも知れない!?
●アルバムがなくなる?
iTMSはアルバムという概念を壊してしまった。
今日、アルバムと呼ばれている形態は、複数の曲を、ひとつのメディアなどにまとめることだと定義できる。その際、「アーティスト」だったり、「テイスト」、「xx年代ヒット」など、何らかのテーマで普通はまとめられている。
でも、iTMSのような、1曲で楽曲を購入するスタイルが定着した場合、アルバムという制約に縛られない、もっと大きく(または小さく)、もっと自由な音楽の表現形態が可能になる。
1曲4-5分、それを10-15曲くらいをまとめて「アルバム」を作っていたアーティスト達も、曲の作り方を根底から変えることができる。例えば、長さが3時間の「曲」を作ったり、1日1分ずつ提供して、1週間で1曲が完成するとか。考えれば考えるほど、いろんな自由が見えてくる。iTMSがアルバムの固定概念を打ち破ったというとあまりにも言い過ぎかもしれないけど、少なからず楽曲の提供方法は変わっていくだろう。
でも、現実は、「曲」の自由化が急速に進められるかといったらそうでもなさそうだ。だって、3時間の曲なんて、多分誰も聴きたくないし、人が心地良いと思う曲のパターンって、だいたい決まっているから。ミュージカルの要所要所に挿入される歌だって大体10分以下だし、クラシックだって「楽章」という単位でまとまっている。
●アーティストに関係なく、良い曲を聴く
二つ目に、アーティストの存在が、薄くなるのではないかということ。もちろん、音楽製作をするアーティストは自分の個性を削って、音を生み出しているわけで、アーティスト自身の魅力が衰えることはない。でも、ここ数年でコンピレーションという形態が市民権を得たことを考えると、iTMSのようにリスナーが1曲ずつ選んでの購入が当たり前の状態では、リスナーはアーティストの存在をあまり意識しなくなるかもしれないということ。
例えば、「坂本龍一がツアーの移動中に聞いている曲」というくくりで10曲紹介されていたら、ちょっと興味沸かない?リスナーは坂本龍一のお薦めだと思ってその10曲を聴くだろうし、その音楽が誰によって製作されたかなんて、別に知らなくてもいい。
逆に、その10曲の中で「これだ!」って思う楽曲があれば、その曲を皮切りに同じアーティストの別の曲もチェックするかもしれない。
ある意味、これからはいろんな知恵を絞って、良質な音楽をリスナーに提供していくことに苦悩する時代になるのかも。
●ジャケットがなくなる?それに変わるビジュアルは?
アナログレコードからCDの時代になって、「アルバムのアートワークがリスナーにイマジネーションを与えた時代は終わった」なんていった人もいたけど、確かにアナログレコードのアートワークはそのまま額に入れて飾れるほどクオリティの高いものが多い。12センチ四方のCDアルバムのアートワークでは、表現しきれないビジュアルも多そうだ。でも、「CD屋に行って、ついジャケ買いしっちゃったよ」という、話もよく聞くように、12センチ四方のアートワークでも音やアーティストをビジュアライズする役目を十分果たしていた。
じゃあ、データで楽曲を買う次代になったらどうなるのか?
当面の間は、データで購入できる楽曲はCDでも提供されると思うので、アートワークがなくなることはないと思うけど、今までのレコード屋でCDを見ているときのように、音より先に視覚的に訴えられるといったことが少なくなる。試聴した音のインパクトでその楽曲の良し悪しをリスナーは判断することになるのかな?
でも、人間は聴覚だけで、様々なイマジネーションを膨らませることは不可能だ。音をビジュアルとして具現化することは非常に重要で、音とビジュアルの相乗効果でアーティストなどのイメージを作り上げることが出来るからだ。恐らく、音に付属するビジュアルはなくなることはない。だから、今後は映像とタイアップしたり、Webページと連動したりといった新しい方向が模索されるのは時間の問題。様々なメディアに大きく影響を与えるのは必至だ。
●朝の連続ドラマ的、リリース方法?
これだけ、新しい音楽に遭遇することが出来る今日のリスナーは、毎日どんな素敵な音に出会えるか楽しみでたまらないと思う。でも、アーティストにしてみたら、自分たちのファン、または気にしてくれている人をどうやって、繋ぎとめておくかに必死になって考える。
アルバムという単位で楽曲を提供する必要がなくなった今、1曲ずつでも楽曲をコンスタントにリリースすることが必要となる。特に、女優や歌手、楽曲を提供されているアーティストや、プロダクションにオンブにダッコされているアーティストは、入れ替わりの早いこの業界で、いつも話題を作るために(プロダクションが)必死だ。
昔は、リリース間隔を短くするために、8cmシングルが主流だった。しかし、ある程度売れているアーティストでなければ、プレス、流通にのせるためのコストと、販売店の在庫を持つリスクは避けられなかった。しかし、データ配信で物質的な流通が皆無であるデータ配信であれば、リリース間隔は自由に設定できる。すでに、毎月インターネットで新曲を公開するアーティストも存在するが、そういった手法が一般化してくると思う。
●いらないレコード会社は切ってしまえ!
最後に、レコード会社の存在。
iTMSにソニーミュージックエンターテインメント(SME)は参加していない。つまり、iTMSからソニーに所属するアーティストの楽曲は購入できないということだ。SMEはいくつものレーベルを持つレコード会社でおそらく日本でも最大級のレコード会社のひとつ。
ソニーグループは独自が主催している音楽配信サービス(bitmusic、Mora、MusicDrop)をすでに始めているので、競合他社となるAppleのiTMSには、SMEを参加させていない。
iTMSに参加していないSMEなどのレコード会社所属アーティストが、レコード会社を離れ、iTMSに参加するという話が出てきている。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0508/11/news022.html
アーティストにとって、レコード会社は、自分の楽曲を世の中に伝えるための手段の一つに過ぎない。
所属レコード会社がiTMSに参加しないがために、リスナーに効果的に自分の作品を提供する方法を絶たれてしまうとしたら、アーティストはレコード会社を切ることも考えるのは当然のことだ(iTMSが引き続き業界で優位な立場に立っている限り)。
また、メジャーシーンにはいるが十分な活動ができないアーティストや、インディーズレーベルを持つレコード会社、インディーズに所属のアーティストなどには大きなチャンスとなる。
iTMSが音楽配信を一気に一般化させたその影響は大きい。特に、音楽の表現方法までに影響を与えるかもしれないということを考えると、Appleは新しい音楽文化を作ってしまったといっても過言ではないかもしれない。
いち音楽ファン、いち音楽製作者としては、こういった動きはエキサイティングでたまらない。好きな音楽が簡単に探せて、好きなときに購入することができるなんて、夢のようだし、「メジャーレーベルからデビュー」というあまりに象徴的で、あまり意味のないものにとらわれない、アーティストが増えそうだからだ。
ところで、こういった動きとは全く反対のベクトルへまっしぐらな人たちもいる。
下北沢のディスクユニオン(アナログレコードを中心に扱っているレコード店)へ行って驚く光景は、大勢の若者がものすごい指さばきでアナログレコードを物色しているのだ。カテゴリとアルファベット順に並べられた棚と、レコードジャケットだけを頼りにガンガン掘り出し物のレコードを探し出していく。みんな4-5枚、多い人はかなりの枚数買って店をでるのだ。ほとんどがDJ目的の音源探しなんだけど、下北沢にはこういったレコード屋が多くてそれなりに賑わっている。
iTMSとは反対にこういった音楽の需要があるところを見ると、まだまだ音楽流通とそれにまつわる変化は続いて行きそうだ。
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